スピアフィッシングジャパンカップ2011 大会レポート


荒れる海、そのとき男たちは……

8年目の決断


2011.11.04

大会前夜

 三々五々、竹芝桟橋のターミナルに集るのは、釣り竿よりもひときわ長い棒を持った男たち。それぞれが携えるバッグにはこれまた長い足ひれが括り付けられている。
 久々の再会に興奮する大会参加者に交じり、ひとり疲労感を漂わせているのは代表の丸山。大会当日の都合がつかず、島でのあいさつ回りだけを済ませて入れ違いに島を出てきたという。海なし県までの終電に飛び乗るという丸山と、数人のスタッフで慌ただしく打ち合わせをして、こちらも大急ぎで船へと乗り込む。甲板へ上がると、ひと足先に乗り込んだ大会参加者たちが車座になっている。今回の大会参加者のリピーターと新規参加者の比率はおよそ8対2。11月にしては温かい潮風に吹かれつつ、缶ビールを空けて再会と出会いを喜びあう。かつては朝方まで続いた甲板での飲み会も、今年は2時間程度でお開きに。8年前の第一回の大会のころ、ピカピカだった青年たちもそろそろ中年のとばぐちに。朝まで飲み続けて海に入るだけの体力も無鉄砲さもなくなった。

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001弾丸挨拶回りを済ませ、長野に戻る会長・丸山。会えばやはり魚突きの話。
002参加者中、もっとも遠方の西表島から来たあかちんさんと、アルプスの山すそに暮らす丸山の短い再会。船に乗る前からすでに足元は怪しげ。
003吹きっさらしの甲板で毛布にくるまり、恒例の前夜祭。みんなすっかりおっさんになりました。







2011.11.05

大会史上初の……

 入港を告げる船内放送に目を覚ましてデッキへ出ると、重油を流したような朝凪の海が広がっていた。港内でも黒々とした水ごしに海の底がくっきりと見える。迎えにきてくれた前泊組からは「20m近いヌケ。大会が始まって以来の透明度でしかも回遊魚も接岸中」との昨日の情報がもたらされ、俄然盛り上がる一同。ホテルへの道すがら、ちらりちらりと展望が開ける場所では穏やかな海がのぞいている。ところが、ホテルで主催者からされたのは驚きの発表だった。
「南東から強いうねりが入っており、競技海域になっている磯はどこも大荒れ。しかも、予報ではこれから波は強くなっていく」
 船の着いた港は島の北西。ここからホテルまではちょうど風裏になっていたため、波が穏やかだったのだ。競技海域はどこも「波を肴に一日飲めるくらい、美しく大きなうねり」が入っているという。「透明度は文句なし。上級者なら泳げる」との意見もあり、競技開始時間まで待ってもう一度下見に出るという。
 はたしてその2時間後。大会の開会式で最初に発表されたのは「中止」のひと言だった。「上級者なら泳げなくもないが、安全には万全を期したい」とは副代表の橋本。事前に副代表らが撮ってきた海況を動画(サーファーなら、すぐにでも板をかかえて走り出すような長く美しいうねりだった)で見ていた参加者たちは、残念そうなそぶりをみせつつも納得した様子。

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005久々の再会を喜びあう参加者たち。今年のパンフレット&tシャツは新進アーティストの萱島雄太氏によるもの。イカス!
006「大会中止」のアナウンスを行なう副代表の橋本。会場は一瞬にして微妙な雰囲気に。

 そうなると気にかかるのは、この1日の過ごし方。大会の競技地は荒れているが、島の西側は凪いでいる。参加者の間では、早速入るべきポイントの相談が始まった。そこにかぶせたのは、もうひとりの副代表の田口。
「たいへん申し訳ないのですが、今日は島での入水をやめてほしい」
 とたんに緊張感の走る会場。競技は中止のうえ、遊泳可能な海面があるにも関わらず入水禁止とはなぜ!? どの参加者の顔にも、いぶかしむ気持ちが表われている。
「漁協には、事前に潜水を行なう海域を通知してある。大会としては中止としても、これらの海域以外で泳いでいる人を地元民が見かけたら、当然これを大会の参加者と思うだろう。地元からの信頼の維持のためにも、今日の潜水は控えてほしい」
 本大会の開催地は漁業調整規則上、手銛による遊漁が問題のない地域だが、「合法だからといって、その地域に住む人にことわらずに開催をごり押ししたくはない」という丸山の考えから、開催に先立っては安全体制や入水ポイントなどを漁協や町、警察、消防への連絡を欠かさず行なってきた。
 このような次第で地元への配慮を優先したのだが、スケジュールをやりくりして遠隔地から訪れた人や、数か月ぶりに海につかることを楽しみにしていた人にしてみれば、おあずけを食らったようなもの。ここでもまた、主催者には理解を求めるための交渉が強いられた。

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007和やかな雰囲気から一転。重苦しい空気が漂う開会式の会場。
008なんとかして海に入ろうとする参加者に対して、ダメだしを繰り返すぶれない男、田口。

 結局、大会当日は閉会式まで自由行動で「島内観光」を楽しむことになり、いくつかのチームに分かれて各地へと散って行った。これまで当地を訪れても許される限りの時間を海中で過ごしてきた参加者にとって、島内の観光は実ははじめて。温泉をめぐるチームあり、港でアジを釣るチームあり、リスとたわむれ、砂漠を見に行くチームあり……。それぞれがそれなりに、島での休日を楽しんだ模様。

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009宿での休養を選んだシニアチーム。
010港でイシガキフグとたわむれたチーム。
011あきらめきれずに海を見にいったチーム。

 大会の催行上、もうひとつ問題となったのが夕飯の確保。例年は宿から食事の提供御受けた後、その日の漁獲の一部で参加者が思いおもいの料理を作る、というスタイルで懇親会のつまみがまかなわれてきた。今年は「魚をうまく食ってこその魚突き。俺が陣頭指揮にたって、最高の魚めしを提供する」と半スタッフの山田さんが立候補。厳選した調味料を手に来島。宿からの夕食の提供はなし、ということになっていた。しかし、漁獲が期待できない以上、夜のおかずとなりえるのは前泊組が獲った若干数の魚のみ。50人近い人間に対して圧倒的に素材が足りない。
 そのとき「全然、大丈夫っスよ」と立ち上がったのは参加者のキミさん。築地の有名仲卸に勤める彼が出してきたのは、大量のマグロおよび新鮮な魚介類。港で釣られたアジや前日の漁獲、九州の突き師、舌平目さんから送られた野生肉と合わせれば十分50人を満足させられるだろう、という。幸い、大会参加者はそれぞれが腕に自身のある魚食い。アマチュアだけではなく仲買、板前も多数参加していたので魚をさばくのはお手の物。海に入らず元気いっぱいの参加者たちは、夕方以降、懇親会のための魚をさばき続けた。

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012持ってる男、キミさんは築地のマグロ業界のプリンス。
013現シーカヤックガイドのあかちんさんは元板前。
014エソさん。「突いたり割いたり切ったりするのは得意なんス」
015魚食普及団体「re-fish」から参戦したheroさんは高級魚から未利用魚まで幅広く扱う仲買人。
016「マグロ!ご期待ください!」初参加のスタッフ、ももこさんとあやさん。あやさんは懇親会後、その辺で朝まで寝入るというパフォーマンスを披露。絶賛される。
017アジ釣り部隊による漁獲。







そして、怒涛のくじ引き大会へ

 午後7時。ドキドキの結果発表とはいかなかったものの、そこは全国から気の合う仲間が集う祭典、大盛り上がりで閉会式兼懇親会がスタート。表彰式はないかわりに、今年は目の前に手練れたちが全力で作った肴が並んでいる。主催者のあいさつもそこそこに乾杯、肴をつつきつつ、お待ちかねのくじ引き大会へ。
 例年協賛をしてくださっているダイビング用品メーカーやショップ各位に加え、今年は高知の老舗刃物メーカー「トヨクニ」さんも大会をスポンサード。刃物に目がない参加者たちはこれに大喜び。ノーコンテストになったことから入賞者に用意された賞品もくじ引きに提供され、くじ引き大会は例年以上の盛り上がりを見せた。

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019-021キミさん渾身のチョイスのマグロと魚介の刺身に欠食中年たちが殺到。そのほか、舌平目さん提供のジビエを使った料理などなどがあったものの、瞬殺されたため写真はなし! 舌平目さん、大変おししゅうございました。

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022-028大会優勝賞品用の丸山手銛とトヨクニさん提供の包丁をダブルで当てたのはシノさん。会場からは割れんばかりの喝采、ではなくブーイングがおくられた。ほかにもクラゲ用フードから、マスク、バッグ、マハタまでくじ引き用に用意された賞品は例年以上の充実ぶり。協賛してくださったみなさま、ありがとうございます!






大会まとめ

 「これまでにない海況から、残念なことに中止となってしまった今大会。それでも、抜け駆けして海に入るようなことはせず、協会の方針に強力をしてくださった参加者のみなさんにはたいへん感謝している」とは会長の丸山。続けて「魚突きの日本一を決めることよりも突き師同士の交流の場をつくることを目指しているジャパンカップとしては、成功のうちに終了することができた」とも。
 開催までの道のりは平たんではなかったものの、今年もぶじ開催にこぎつけられたのはスタッフと参加者が魚突きや本大会に対して思いを共有できるようになったから。来年度以降も引き続き開催できるよう、皆様のお力添えをお願い申し上げます!





協賛メーカー、ショップ各位

 ・鮨英
 ・有限会社トヨクニ
 ・有限会社ピュアカンパニー
 ・エキスパートダイビング
 ・株式会社ダイブウェイズ
 ・有限会社オーシャントレーディング(ブッシャー ジャパン)
 ・株式会社エタニティ【kill shot】
 ・スクーバオーソリティ
 ・太洋工芸