スピアフィッシングジャパンカップ2010 大会レポート


2010.11.13



衝突と改革

 「現体制では、ジャパンカップを開催することに賛成できない」

 2009年大会の直前、ジャパンカップ(以下SJC)の運営体制に、大会主催者のうちのひとりだった、栗岩さんから疑問符が呈された。
 大会が安全管理の面でまだ不足があるのでは、という栗岩さんと、「熟慮して行っている」と主張する会長の丸山。『MOGULER'S DELIGHT』の掲示板上では、そのほかのスタッフも交えて、激しいやり取りが繰り広げられた。 その結果、「主催者間での議論が不十分なまま、今年は大会としての催行をしない」ことを丸山が決定。2009年度のSJCは、「大会」としてではなく、今後のSJCのあり方と、魚突きの将来の在り方について考える場として「ミーティング」という形で開催されることになった。

 紆余曲折を経て開催された2009年のミーティングでは、金銭的、時間的に大きな負担が主催者にかかっていたこれまでの体制を見直し、1年ごとに運営委員を募って催行することを決定。2010年以降の大会の安全管理や、活動の広報、大会運営に携わるスタッフが選出された。また、日本スピアフィッシング協会は、「魚突きの大会を催行するための組織」として内外から認識されていたが、本来は、スピアフィッシングの社会的な地位向上を目指すための団体であることを再確認。「大会運営」と「一般への魚突きをめぐる法令などの情報の広報」、「関係省庁への提案・交渉」の大きく3部門に分かれて、それぞれの活動を推進することになった。

 新・運営委員が着手したのは、協会サイトの立ち上げと入門者向けの講習会の開催。これまでのSJCは、「魚突きの日本一を決定するコンペティション」というより、「年に一度の魚突き愛好家のお祭り」といった色あいが強く、魚突きをはじめて日の浅い参加者の参戦も多かった。すべての大会を通じて、これまでは大きな事故などは起きなかったが、大会の開催地は激しい潮流が接岸することもある。そのため、運営スタッフのひとりから、「安全管理の面から大会参加資格のハードルを高めよう」、という提案がされ、参加資格に届かない人の受け皿、また、入門者のスキルアップを図る場として講習会を行なうことを決定。2010年4月24日、第一回プール講習会を催行した。(この模様はこちらへ)

 講習会の後も主催者の丸山とスタッフの間で2010年大会の運営体制について、半年以上をかけて議論。出場者の受け入れから大会の開始、競技中の安全管理についてシミュレーションし、議題ごとに大幅な向上が図られた。起こり得る事故、事故後のリカバリー、それらのオペレーションに必要な機材の洗い出し、救護までのフロー……。
 大会の2か月前には、スクーバダイビングのインストラクターの資格を持ち、水難事故の救命救急のトレーニングを受けたこともある「よしたけ」さんによる安全講習会を実施。運営スタッフと有志が集い、実際に海を使って要救護者のサーチ、引き揚げ、曳航の技術について受講した。


本年度の記念Tシャツは迷彩柄ヒラメ

 さまざまな準備を経て、ようやく開催にこぎつけたSJC2010。歴代チャンピオン全員がエントリーしたのに加え、漁獲、潜行深度とも日本でトップクラスの「マッコウ」さんや魚突きの黎明期から活躍する生ける伝説のひとり、「海笊」さんも参戦。これまでにない漁獲が予想されたのだが……。その結末や、いかに!?










一年ぶりの大会、誰も予想しなかった結末

 「大会運営、とくに開会式から移動までの流れはもっとスマートにできるのでは」という参加者の声に応え、今年度は当日の早朝着の大型客船組と前泊組、ジェットフォイル組で別々にブリーフィング。島に着いてからの待機時間、説明時間が大幅に短縮された。開会式は主催者あいさつと安全面での重要事項の説明だけにとどめ、ポイント抽選へ。例年通り、各ポイントに振り分ける人数を決定したのち、入りたい場所の希望を募り、人数が合わなかった場所を抽選した。

開会式。まだみんな爽やか。
緊急のサインシステムも改善。「ダイビングフラッグマークからこの旗になったら緊急事態。すぐに集合してください」


有志ボランティア部隊。
1ポイント潜水隊員とワッチ隊員の2名体制。

 大会当日、ポイントA、Bがある島の西岸はこれまでにない凪。対して、初心者ポイントのCとそれに接するポイントDのある東岸は少々波が高め。これまで優勝者が出ているのはポイントAとポイントD。Aは全体に水深が深く潮流が速いものの、クエも潜むロックガーデンがある。島に回遊魚が接岸しているときは、このポイントAの周辺に寄ることも多い。Bは大型の回遊魚がまれに接岸する一発逆転ポイント、Cはヒラメが多いので入門者でも運があれば優勝を狙え、Dは全体にフラットだが、ポイントが広く、まんべんなく魚がいる、という傾向がある。このような条件を鑑み、上級者の多くはAとDを希望。ほかの上級者とのバッティングを嫌った数人がBへと流れた。


対象魚種とサイズの厳守をお願いする丸山会長 ワッチ隊員は見た!
人数と様子を常時確認。

 抽選後は早々と磯へ移動。競技の開始時間を待ち、新しく導入した大音量ホーンを合図に全ポイントが一斉に入水!筆者が入ったのはポイントB。入水直後の浅場は10m以上抜けるまずまずの透明度。これはいけるか? と、思ったのもつかの間。磯の外へ出ると浮遊物も混じる白濁りの海だった。透明度はわずか6mほど。少し岸を離れると、底の地形がまったくわからない。

入水前の記念撮影。第二次魚突きブームから10年。みんな親父になりました。 ヒラスズキよろしく、サラシからエントリー。

海中はどこも白濁り。

 カラ潜りを繰り返しては、根とそれについている魚を探すが、魚影も少なめ。突いてもポイントにならない非対象魚種のメジナの群れと、小型のイサキが濁りの向こうから現れては、すぐさままた濁りの向こうに消えていくのが繰り返されるばかり。大会の時期が遅かったためか、例年優勝に絡んでくるアカハタも見ない。3時間弱の潜水を通じて、規定のサイズに達する魚には出会えなかった。結局、一度も銛を放つことのないまま、終了。

















小型のカンパチに、ナンヨウカイワリも混じった。

 このポイントではほとんどの人がこんな状況で、終了時の漁獲は数えるほど。そのなかでいちばん魚を揃えてきたのは「9K」さん。アカハタ、ムラソイ、カサゴなどの根魚を漁獲。「沖に出でも、まるで何も見えへんかったから、岸近くで遊んどったわ」とは本人の弁。
  「ギリギリポイントになるかどうか、という魚は時間がもったいないのでスルー」という多くの選手がとる戦法の逆をいき、型を揃えた。それでも例年の漁獲からすると、上位に食い込むことも難しいだろう。




続々と漁獲が到着中! ……ん!? ポイント築地での漁獲。

栗さんの「鬼の計測」よりちょっとアバウトになった計測隊。

 ちょっと残念そうな空気が漂ったまま、ゆるゆると撤収して宿へ戻る。各ポイントから戻ってきた車が、計測会場に続々と魚をおろすが、どこのポイントと似たような状況だったらしく、漁獲はこれまでの全大会を通じてもっとも少なかった。 ただ一匹だけ、誰の目にも明らかに頭抜けていたのが、ポイントAで揚げられたヒラメ。突いた主は「緑ロケッツ」さん。40㎝台の魚が並ぶ中、この魚だけが70cmを超えていた。突き師ごとに魚通しでまとめられた漁獲と比べても、このヒラメが放つ威容は別格。計測前の下馬評では緑ロケッツさん優勢、というか、誰もが彼の優勝を疑わなかった。

 ブルーシートの上に魚を広げる恒例の計測も、魚が少ないため40分ほどで終了。発表までの待ち時間は、閉会式に供する魚を各自分担してしたごしらえする。毎年、大会当日はショボショボなのに、前日に素晴らしい魚をあげてくる「前日チャンプ」の「よっし~」さんが大会前に突いていたヒラメや、カンパチ、カワハギが次々にさばかれていく。





皮剥隊。
「脱がすのは、得意なんです」
腹出し隊。キシシッ! 超絶テクでヒラメを造ったのは上京3年目のエソマスターさん。
「自分、いつも暗い台所で包丁と腕、磨いてますから」

お待ちかねの結果発表。はたして優勝は……

 日もとっぷり暮れたころ、定刻どおり閉会式兼祝賀会がスタート。大会主催者の丸山の簡単なあいさつのあと、いよいよ結果発表に……と思いきや、丸山が話し出したのは昨年度大会がミーティングになってしまったことへのお詫び。
 「表彰式に入るまえに…昨年度は、我々の不備にて大会としての開催が出来なかった事を心からお詫びします。ミーティングであるにも関わらず昨年もお集まり頂いた方に心から感謝しています。昨年の、問題提起のおかげで、本年は運営形式も変わり、大会はさらに良いものになりました。そして、例年通りの開催であれば、昨年チャンピオンとなれたのはNickさんでした。本当に申し訳ないと思っています。そんなNickさんに、主催者からプレゼントがあります。」


裏チャンプwith裏トロフィー。

 そういいながら丸山が取り出したのは、「SPEAR FISHING JAPAN CUP 2009 CHAMPION」の文字が反転して刻印されたクリスタルトロフィー。正式ではないけれど、「裏」チャンプであること示す、頓智の効いたプレゼントに、泣き上戸のNickさんは目を潤ませ、会場からは割れんばかりの拍手が送られた。







 続いては待望の結果発表。5位からの入賞が読み上げられた後、注目の上位3人の発表へ。3位はポイントBでいちばんだった9Kさん。総合獲得ポイントは35.2㎝のイサキと38㎝のアカハタで54.76ポイント。2位はなんと、先のヒラメを獲った緑ロケッツさん。ポイントは59.7ポイント。緑ロケッツさんの優勝は確実、と思われていただけに、会場からはどよめきが。さらに発表を続ける丸山。

2位の緑ロケッツさんは二又銛で入賞! 3位入賞の9Kさん。「手堅くいったで」

  「42.8㎝のカンパチと32.5㎝のイサキで、総合獲得ポイント64.36ポイントの『neo』さんが優勝!」 25m以深を主戦場とする上級者が居並ぶなか、優勝をかっさらったのは、大会初入賞のneoさん。突いた魚のサイズこそ大きくなかったものの、それぞれの魚が係数の高い魚種だったため、思わぬ高得点をはじき出した。

そして優勝はneoさん。
持ち回りのトロフィーと、クリスタルトロフィーを授与。
恒例のトロフィー乾杯。今年は350㎜缶1本と控えめ。


 単なる大きさだけでは勝てないのがSJCの妙。希少度、難易度、魅力の3つの要素でどの魚にも魚種ごとの係数が設定されている。たとえば、イサキは30㎝以上の場合、係数は0.8。32.5cmのイサキのポイントは26.0となる。一方、ヒラメは魅力のある魚だが、難易度は低い。よって係数は0.7。緑ロケッツさんのヒラメは71㎝なので、ポイントは49.7だった。さらに、個人のポイントに換算されるのは突いたうちの2匹まで。40㎝台の魚でも、2匹揃えれば、80cmクラスの1匹だけの漁獲に対抗しえることになる。

 上級者たちの多くは「確実に勝てる魚を揃える」という戦法で、小型の魚を見送ったことがあだとなった。「魚突きにおける、経験・運・知恵の揃う真の実力者が勝てるような大会にしたかった」とは、祝賀会での丸山のコメント。魚の少ない中、2匹の好ポイント魚種を揃えたneoさんが優勝し、あらためて大会ルールがよく考えられているものであると認識した。


表彰式後の大抽選会。豪華賞品に大盛り上がり

 それぞれの表彰のあとは、みなお待ちかねのくじ引き大会。大会協賛ショップから送られた賞品の総額は50万円オーバー! 参加者、スタッフ、見学者入り乱れての抽選会は大盛り上がり。協賛者のみなさま、毎度の豪華賞品のご提供、ありがとうございます! 抽選会のあとはもはや恒例となった「健康プロデュース」による魚料理パーティー。当日獲れた魚と、全国の仲間から送られてきた山海の珍味(舌平目さん、ジビエベーコンたいへんおいしゅうございました!)を次々に調理&賞味。魚が少ないこともあって、当日獲られた漁獲のほとんどが、朝方まで続いたこのパーティーでたいらげられた。


太鼓マンさんは「ゴールデンフード」をゲット。
目がうるんでいるのは、うれしいからではなく、90オーバーのモロコをロックオンしながら逃げられたから。
賞品をあてた見学レディース。来年はぜひ参戦を!

油淋アカハタ健康スペシャル。 辛いカキカレー。カキ5キロ投入。 瞬殺。



大会まとめ

 本大会は、1年をかけて運営を準備したスタッフのほかにも、当日競技のサポートに入ってくれた有志ボランティアがいてくれた。「手弁当でもかまわない」と言って関わってくれた彼らの力なくしては、大会の運営はできなかった。また、今大会を密着撮影してくれたのは、泳ぐ写真家・森澤ケンさん(http://morisawa-photo.com/)。かなり高い魚突きのスキルを持ち、本当は魚を獲りたかっただろう彼も、自費で来島して素晴らしい写真を提供してくれた。有志ボランティアと森澤さんにここで感謝を表したい。
 また、日本スピアフィッシング協会のわがままなお願いに応えて、賞品をご提供してくださった協賛各位にも重ねて御礼申し上げます(来年もよろしくおねがいいたします!)。


大会リザルト

2010年スピアフィッシングジャパンカップ 試技結果
選手 合計ポイント
魚種 サイズ/重量 ポイント
neo 64.36
カンパチ 42.8cm 38.52
イサキ 32.3cm 25.84
緑ロケッツ 59.70
ヒラメ 71.0cm 49.70
カワハギ 26.9cm 10.00
9K 54.76
イサキ 35.2cm 28.16
アカハタ 38.0cm 26.60
エソマスター 41.13
カンパチ 45.7cm 41.13
n/a
よしたけ 36.18
アカハタ 37.4cm 26.18
カワハギ 26.1cm 10.00


協賛メーカー、ショップ各位

鮨英   有限会社ピュアカンパニー   エキスパートダイビング

メーカーズシャツ鎌倉株式会社   株式会社ダイブウェイズ

株式会社エタニティ【KILL SHOT】   スクーバオーソリティ

株式会社チコ  spearkairi  オーシャントレーディング  太洋工芸


 事故もなく、成功のうちに閉会できた2010年度大会ですが、ここにきて難しい問題が顕在化しはじめています。この10年で、テレビ番組そのほかの影響から、大会の開催地の伊豆諸島全体で突き師の人口が大幅に増加しており、また、漁船とのニアミスや接触事故が相次いだことで、地元の漁業者がスピアフィッシングにかなりナーバスになっています。
 大会を運営し、日本で唯一の魚突きをテーマとする団体であることから、伊豆諸島以外の地域からの提案や苦情が日本スピアフィッシング協会には入ってきています。  
 これまでスピアフィッシングを楽しめた地域でも、一方的に締め出そうとする動きがあり、この先もスピアフィシングが楽しめるよう、協会では関係省庁、地域、団体と交渉を進めていこうと思っています。
 現在は、関東圏の限られた人間だけで会が運営されているように感じているひともいるようですが、協会は常に、運営に関しても大会に関しても、すべての突き師に門戸を開いています。我こそは、と思う人は、ぜひ協会の運営に関わっていただきたいと思います。  

 大会運営も協会の運営も、どちらもまだまだ至らない部分が多々ありますが、皆さまのご個協力を頂き、よりよい魚突き環境の為に尽力致しますので、応援よろしくお願い致します。