安全対策

 サーフィン、ダイビング、ヨットなどのマリンスポーツ全般に言えること、それは「自然相手のスポーツ」ということです。 天候の変化、海況や干満を注意するのはもちろんですが、スピアフィッシングでは特に注意すべきポイントをまとめています。
 楽しく安全に遊べることが大人の条件。
自然と調和するには常に自分の技量と向き合うべきです。

潮流や船

潮流

 潮流は時間によって逆方向へ向きが変わることがあります。もし潮流に乗ってしまった場合は、体力の消耗を防ぐためにも無理に逆らって泳ぐことは止め、流れに対して横あるいは斜めに泳いで脱出します。

 潮流が沿岸部に沿って平行な場合は、ある程度流されても岸沿いを泳いで帰ってくることもできますが、沖出しの流れの場合は一刻も早く脱出することです。

 ダウンカレント(水底方向への流れ)には特に注意、棚の縁などに多く、底に向かって一気に体を持って行かれることもあります。

 水中での音の伝達速度は空中でのそれに比べ約4倍高いですが、フードを着けている場合は音が聞き取りにくくなります。フードを着けていなくても、岬の裏側に船がいた場合、船が岬を回って来た瞬間までその音が聞こえにくい場合があります。

 船のエンジン音が少しでも聞こえたら、すぐに浮上して船の位置を確認すること。浮上の際、水面を見て頭上を船が通らないか注意すること。また、手銛を上に向けながら浮上することも有効です。

体調、耳の障害

体調と精神状態

 素潜りではタンクなどの呼吸機材を使わずに潜ります。無駄な酸素の消費を避けるには十分にリラックスしていることがとても大切なのです。

 不安・緊張・恐怖は、潜水時間や潜水能力を低下させることが考えられるため、絶対に無理はしないようにすること。また、潜っている最中に耳の不調を感じたり、スクイーズに陥ったり、足がつったりと、何か異変を感じた場合も同様です。

 その日のスピアフィッシングを中止、あるいは海からすぐに上がる勇気を持つことです。
十分な睡眠と前日の深酒を避けることで、スクイーズや波酔いの原因を除くことができます。

耳の障害

 潜水中、ピンホール(鼓膜に穴が開くこと;鼓膜穿孔)あるいは外リンパ瘻などの内耳障害に陥ることも考えられます。
ピンホール
 ピンホールを発症すると、中耳内に海水が入り、そのショックで強い眩暈を起こしたり、平衡感覚を失います。
水面に向かって泳いでいる(浮上している)つもりが、実は水底付近で水平方向に泳いでいたという事例も。

 万が一、潜水中に平衡感覚を失った時は、フロートラインを引いてラインに伝わりながら水面に向かうようにしましょう。
外リンパ瘻
 外リンパ瘻は、内耳窓(蝸牛窓や前庭窓)の膜様部位が破損し、内耳内のリンパ液が中耳内に漏れること。これを発症すると、激しい耳の痛みや耳鳴り、めまいや吐き気が起こると共に、平衡感覚が失われます。内耳障害に陥ると、とても潜水を続けられる状態にはいられなくなります。

 初期症状のめまい、吐き気が強烈なため、耳鳴り、難聴は自覚しないこともあります。痛みが出ないこともあるので要注意です。確実に内耳障害が出ますので、出来るだけ安静にし、専門医を受診することをお勧めします。

 鼓膜穿孔は、自然治癒することが多いですが、外リンパ瘻の場合は、安静で治癒しなければ、外科的治療の必要さえあります。鼓膜穿孔は、陸上に上がって5分もすれば楽になりますが、外リンパ瘻は歩けない状態が続き非常に危険な状態です。

 潜水中にめまいを感じたら、一刻も早くエキジットする(海から上がる)こと。エキジット場所まで遠い場合は、ウェイトや手銛など道具をすべて捨てでも戻るべきです。

プラックアウト、サンバ、ハイパーベンチレーション

ブラックアウト

陸上時
息を止めていると苦しさを感じるようになります。

   血液中の二酸化炭素分圧が上昇
      ↓
   脳の呼吸中枢を刺激して脳が呼吸再開の指令

息こらえをすると体内で酸素が消費され、逆に酸素分圧は減少し、酸素欠乏の状態になります。酸素分圧値が閾値以下になると失神を起こし、これをブラックアウト(BO;BlackOut)と呼びます。
水中時
潜水して水底に留まり、浮上するまでの一連の行為の際、作用の異なる外的要因(水圧)内的要因(体内での酸素消費と二酸化炭素排出)を考えなければなりません。

 潜水時
   水圧の上昇で血液中の酸素分圧および二酸化炭素分圧の上昇
      ↓
   体内での酸素消費・二酸化炭素排出による酸素分圧の減少・二酸化炭素分圧の上昇
   その影響は水圧によるものを下回る

 水底時
   水圧の影響は一定
      ↓
   体内での酸素消費・二酸化炭素排出による
   酸素分圧の減少・二酸化炭素分圧の上昇のみ

 浮上時
   水面に到達するまで体内での酸素消費
   二酸化炭素排出による酸素分圧の減少
   二酸化炭素分圧の上昇
      ↓
   強い影響を及ぼす水圧の減少
   酸素分圧および二酸化炭素分圧は共に減少

潜水という一連の行為では、二酸化炭素分圧の上昇によって息苦しさを感じ浮上、水面到達までに酸素分圧値が閾値を下回った場合にブラックアウトを引き起こします。さらに、水面到達後にもブラックアウトとなる場合が数多く報告されています。これは、水面到達時に血圧の変化によって酸素分圧の急激な減少が起こり、ブラックアウトとなるケースです。

シャローウォーターブラックアウト

浅い水深におけるブラックアウトのことをシャローウォーターブラックアウト(SWBO;SwallowWaterBlackOut)と呼びます。

「浅い水深」とは、水深10m以浅です。通常の魚突き潜水では、多くの人が水深10~15m、エキスパートでも20~25mほどまで潜ります。

水深10mから水面に戻る場合、水圧は2気圧から1気圧へ、実に50%も変化します。つまり水深10m以浅は最も水圧の変化が急なエリアであり、そのため水圧の減少による酸素分圧値の減少幅が最も大きく、その結果ブラックアウトが最も起こりやすいのです。

サンバ

ブラックアウトの一歩手前の状態をサンバ(Samba)と呼びます。体の動作が意識的にコントロールできなくなり、痙攣を起こすこともあります。数秒で回復することもあれば、そのままブラックアウトすることも。

ハイパーペンチレーション

過呼吸、特に呼気を強めた大きな深呼吸を何回も繰り返すことです。この状態で潜水すると、苦しさを感じる原因となる二酸化炭素分圧の閾値に達するまでの時間が普段よりも長くなるため、息こらえの時間も長くなります。

ところが、ハイパーベンチレーションによる潜水前の体内酸素分圧の上昇というのはごくわずか、苦しさを感じて浮上する時点で、水面到達までの酸素は体内に残されていない状態になります。

ハイパーベンチレーションはブラックアウトに陥る可能性が非常に高いため、息こらえの時間が長くなるからと言って安易に行うことは絶対にやめること。ゆっくりとした深呼吸を数回行ってから潜る、というのが正しい方法です。

救護法1(ブラックアウト直後)


もしもあなたがブラックアウトを起こしている人に遭遇したら。

マスクから異常にたくさんの空気が漏れていることが多く、首がフラフラしているのもブラックアウトの兆候です。ただし、普段から空気をマスクから逃がしながら浮上する人や、首の力を抜いて揺らしながら浮上する人もいるため、空気漏れや首の揺れだけでは判断しにくい場合があります。

スピアフィッシング中に人を見かけ、少しでもおかしいなと感じたら、その人が浮上した際に「OK ?」と人差し指と親指で輪を作ってサインを出すことをお願いします。そして出された方は「OK」と返します。

ブラックアウトを引き起こした人は顔面が蒼白となり、硬直状態となって白目をむくことが多く、サンバの場合は全身が痙攣を起こすことが多い。ブラックアウトもサンバも、どちらもその様は壮絶ですが、救助者は絶対にパニックを起こさないようにすることが重要です。

救護法2(発見時、すでにブラックアウトから時間が経っている場合)


ブラックアウトはは気絶して脳の働きを停止させることにより酸素消費を抑え、死を回避しようとする人間の体の自発的な防衛行動です。怒鳴ったり体を揺すったりして意識を無理やり回復させるのは、誤った救護方法です。大事なのは、気道確保と自然回復。
  1. マスクは、よほど海況が良くない限り外さない。
  2. 首の後ろを掴んで上を向かせ気道を確保。口の中に嘔吐物などが詰まっていないか確認。
  3. 潜水中にブラックアウトした場合は海水で鼻が詰まり、口はきつく閉じられていることが多い。下顎を突き上げさせて気道確保を確実に行うこと。
  4. 外すのが困難なほどスノーケルを強く噛んでいることが多いが、必ずスノーケルは外す。
  5. 顔に軽く息を吹きかけたり、頬を優しく撫でたりして接触刺激を行いながら、数十秒間、自発的な呼吸再開を待つ。
呼吸再開が行われない場合、気道確保の状態のまま鼻をつまみ、息を吹き入れる。そして人工呼吸をしながらエキジットポイントへ向かって泳ぐ。

近くに人がいる場合は、大声で知らせ、協力してもらう。心停止していた場合は、即座にCPR(心肺蘇生法)を行うことが必要です。